尚美学園大学 講義授業シラバス 2007 （川島素晴）
【金曜日】 II & IV時限：楽器法 I & II
楽器法 I ＜春学期＞
＜概要＞
本講義は、管弦楽法を学ぶ上で必須となる、個々の楽器への深い理解が目的である。
そしてこの講義内容は、音楽を学ぶ上で、ジャンル・専攻を問わず必要不可欠な知識となる。
原則的に1回の講義につき1種類の楽器を扱い、楽器の構造・発音原理・音域ごとの音色・周波数特性・指向特性などの構造・音響面、
及び、歴史・各種奏法・独奏楽器としての可能性・管弦楽での用法などの音楽的な面の、両面からの理解を目指す。
音源、楽譜などの資料を多数用いる予定だが、可能な限り、実際の楽器に触れたいと考えているので、
（専攻生に限らず）楽器を持参できる学生の参加が多数得られると有難い。
なお、春学期は管楽器、秋学期は弦・打楽器を中心に扱うが、通年履修が望ましい。
（「楽器法 II」は、「楽器法 I」の内容を前提とした講義内容である。従って、「楽器法 I」の既習者でなければ理解できない内容も含まれる。）
（１） ガイダンスと基礎知識
「音」や「楽器」を、構造的に見ると同時に音楽的に捉えることの大切さ。楽器法の履修に不可欠な音響学的知識の確認。
[備考] 楽器の分類。様々な発音原理。周波数・倍音。
（２） 気鳴楽器-金管楽器概説
金管楽器に共通する点と共通しない点を概説、及び管弦楽用法の歴史を概観。また、第16倍音までの暗唱を必修とする。
[備考] ヴァルヴとスライド。各種運舌法。移調楽器。
（３） トランペット属と高音金管楽器
ミュートによる音色の変化。C管、B♭管、ピッコロトランペット、コルネット、フリューゲルホルンなどの音色の相違。
[備考] 各種ミュート。各種奏法。指向特性とバンダ。
（４） ホルン
替え管時代→ヴァルヴホルン定着→ダブル→ハイF管登場までの歴史と音色の相違。高音と低音の棲み分けと用法。
[備考] ゲシュトップ。木管・金管双方とのバランス。
（５） トロンボーン属
スライドアクション（グリッサンド）のポシビリティー。テナーバスとバスの相違。ペダルトーンの用法。
[備考] 管長と径の関係による音色相違。Fキーの用法。
（６） ユーフォニアム、テューバ
第4ヴァルヴ。各種テューバの特徴。及び、その他の金管（オフィクレイド、ワーグナーテューバ等）。
[備考] 管弦楽における低音。
（７） 金管楽器総括−木管楽器概説
エア・シングル・ダブルの各リード、開管と閉管、材質…などによる音色の個性化。音階を作る仕組みとキーの種類。
[備考] 管弦楽での木管拡張史。各種運舌法の適不適。
（８） フルート属、その他の無簧楽器
指穴と音程の関係。リングキー、H足部管。ピッコロからコントラバスフルートまで。その他リコーダー、尺八等。
[備考] 周波数特性とマスキング。各種特殊奏法。
（９） クラリネット属
閉管構造と奇数倍音列（例外的な12度サイクル）。B♭、A管の差異と選択基準。E♭管からコントラバスクラまで。
[備考] 円筒管と円錐管。グリッサンドとベンディング。
（10） サキソフォン属
アドルフ・サックスのコンセプト。S/A/T/Bar（及びソプラニーノ、バス）各楽器の特徴。管弦楽での用法。
[備考] スタイルで異なる音色。他楽器との音量比較。
（11） オーボエ属
リード選択と音域の関係。ダ・モーレ、イングリッシュ・ホルンの選択基準について。その他、ヘッケルフォン等。
[備考] 複簧楽器での運舌法の制限。重音奏法の原理。
（12） バスーン属、その他の複簧楽器
フランス式バソンとドイツ式ファゴットの相違。管弦楽におけるダブル・バスーンの用法変遷。その他、篳篥等。
[備考] 屈折管と、音孔とキーの工夫による音階の実現。
（13） オルガン、リード楽器、及び気鳴楽器の補遺
管楽器の発音原理の応用としてのオルガン。管弦楽におけるオルガンの歴史。その他、アコーディオン、ハーモニカ等。
[備考] フルー管とリード管。混合音栓。スウェル鍵盤。邦楽器など。
（14） 期末試験（選択問題、ヒアリング有り、資料持込不可）
＜使用テキスト＞
『楽器のしくみ』／緒方英子／日本実業出版社（2006年、税別2000円） Amazonで購入
『図解 オーケストラの楽器』／ダイヤグラムグループ編、皆川達夫監修／マール社（2007年、税別950円） Amazonで購入
＜参考図書（日本語）＞
『完本 管絃楽法』／伊福部昭／音楽之友社（2008年、税別24000円） Amazonで購入
『管弦楽法』／ベルリオーズ、R.シュトラウス／音楽之友社（2006年、税別12000円） Amazonで購入
『管弦楽法』／ピストン／音楽之友社（1967年、税別7000円） Amazonで購入
『編曲の本』／日本作編曲家協会／ヤマハミュージックメディア（2003年、税別8000円） Amazonで購入
『楽器図説』／菅原明朗／音楽之友社（1976年、税別6800円） Amazonで購入
『楽器の音響学』／安藤由典／音楽之友社（1996年、税別4400円） Amazonで購入
『楽器』／ダイヤグラムグループ編／マール社（1992年、税別3398円） Amazonで購入
『楽器図鑑』／アードレー／あすなろ書房（2004年、税別2000円） Amazonで購入
＜参考資料（英語）＞
『The Study of Orchestration』 ３点セット／Samuel Adler／W.W.Norton (2002年、合計で約23000円)
・教科書 Amazonで購入 ・CD-ROM Amazonで購入 ・ワークブック Amazonで購入
『The Instruments of Orchestra』／CD7枚組オムニバス／Naxos (2002年、約4000円) Amazonで購入
『Principles of Orchestration（管弦楽法原理）』／リムスキー＝コルサコフ／Dover (1964年、約2000円) Amazonで購入
＊日本語版は絶版。→国立音楽大学図書館の情報（本文編）（実例編）
＜履修条件＞
１年計画で管弦楽の主要な楽器を網羅する授業内容であるため、「楽器法 I」の履修者は、引き続き「楽器法 II」を履修することが望ましい。
また、「楽器法 I」は、「楽器法 II」を履修するための条件となるので、「楽器法 II」の履修を予定している者にとっては「楽器法 I」は必修となる。
さらに、「楽器法 I」と「楽器法 II」の両方の履修が、「管弦楽法」などの履修条件となる。
＜成績評価方法＞
成績評価の90％は期末試験に基づく。試験内容がヒアリングを含む選択問題であるので、授業にどれほど能動的に参加していたかが
客観的な数値として直接反映すると考えているためであり、出席を軽視しているのではない。
出席点も10％加味するが、単に出席するだけでなく、授業の場での見聞を経験値として蓄積して欲しい。
＜その他、教員からの要望事項＞
楽器法の学習には到達点がない。しかも常に情報は更新されるので、誰しも生涯学び続ける必要がある。
上記書籍や講義での配布資料に加え、実際の楽曲の音源や楽譜に多数あたり、生演奏に触れる機会を沢山持つこと。
しかもそれは自分の書いた楽譜を実演する機会であることが望ましい。なお、
各楽器の専攻生（あるいは楽器を所有している者）については、各該当回に楽器を持参してもらい、プレゼンテーションの補助をお願いしたい。
楽器法II ＜秋学期＞
＜概要＞
本講義では、管楽器を中心に扱った「楽器法 I」に引き続き、弦楽器、打楽器を中心に扱う。
「楽器法」全体の段取りとしては、楽器学的見地の重視ということに加え、本学において管楽器専攻生の割合が多いという実情から、
吹奏楽を構成する楽器を先に勉強するような流れになっている。そのため、「楽器法 I」の履修で満足する向きも多い。
しかし、通常の楽器法は、弦楽器からの導入が常であって、それは管弦楽の基本が弦楽器への理解に始まるからである。
また、管弦楽において脇役的な存在である打楽器は、楽器の五分類中二項目をも占めるという意味で、
楽器学的見地としては極めて重要かつ広範な存在である。これらへの理解なくして西洋音楽への理解は成立し得ない。
「楽器法 I」を履修した者は、須らくこの「楽器法 II」へと歩みを進め、西洋音楽を構成する楽器に対する確かな理解を確立してもらいたい。
（その他の概要は「楽器法 I」に準ずる。）
（１） 気鳴楽器の復習と、弦鳴楽器概説
構造（ツィター、ハープ、リュート）での分類と、発音原理（撥弦、擦弦、打弦）での分類。
[備考] 気鳴楽器補遺（とりわけ邦楽器について）。
（２） 擦弦楽器概説
ヴィオール属（ガンバ等）。リュート属の擦弦楽器（胡弓等含む）。そして主としてヴァイオリン属の各種奏法について。
[備考] 運弓法。特殊奏法。ハーモニクス奏法の原理。
（３） ヴァイオリン
調弦と各弦の音色特性。音域とポジション。ソロとトゥッティの対比。各種運弓法。重弦の可能性とタブー。特殊奏法。
[備考] ガット弦。弱音器。スコルダトゥーラ。
（４） ヴィオラ
上記各項目の、ヴァイオリンとの対比。とりわけ、運弓と音色の差異。構造上の制約（高音域の困難さと可能性）。
[備考] アルト記号。管弦楽における中音域の役割。
（５） チェロ
上記各項目の、ヴァイオリン、ヴィオラとの対比。とりわけ、ピチカート奏法の音量。座奏による指向特性の対比等。
[備考] ト音記号の注意。テノール記号。親指の使用。
（６） コントラバス
上記各項目の、チェロとの対比。とりわけ、運弓の相違。５弦楽器とアタッチメント。
[備考] ソロチューニング（楽器の相違）。ベース・アンプ。
（７） 擦弦楽器総括
各楽器の様々な奏法の聴き比べ。弦楽器の様々な合奏形態と、管弦楽での用法。
[備考] ソロと合奏の相違点。管楽器等との組合せ。
（８） 撥弦楽器概説、ハープ（ペダルの構造、ピアノとの相違点）
構造（ツィター、ハープ、リュート）での分類と、ハープについて。
[備考] ハープのペダル構造と、設定可能なモード。
（９） 撥弦楽器補遺（ギター、チェンバロ他）、打弦楽器（ピアノ）
ギター、チェンバロ、ピアノ、ツィンバロン等の、管弦楽における用法とその変遷。
[備考] カポタスト。ピアノ内部奏法、各種音律と平均律。琴類と筝類。
（10） 打楽器概説−膜鳴楽器
ティンパニの管弦楽における用法の変遷。各種太鼓類。タンバリン、クイーカ等。
[備考] 音響特性（非整数倍音列）。ペダル・ティンパニ。
（11） 体鳴楽器１（各種金属打楽器、鍵盤打楽器とその音域）
シンバル類、トライアングル、ベル類、ドラ・ゴング、アンヴィル等。チューブラーベル、鉄琴類。及び木琴類。
[備考] 各種マリンバとその用法。撥の種類と奏法。弓奏、スーパーボール奏法等。
（12） 体鳴楽器２（木質打楽器）、ドラムセット、その他の打楽器
ウッドブロック、木魚、むち、クラヴェス、カスタネット、ギロ、ヴィブラスラップ、マラカス等。
[備考] その他打楽器奏者が担当する様々な楽器（ホイッスル、ウィンドマシン、サイレン、日用品等）。
（13） 電鳴楽器、電子機器、人声（管弦楽における用法を中心に）
オンド・マルトノ等、管弦楽に用いられる電気楽器を中心に。管弦楽における語り、独唱、合唱の用法。
[備考] MIDI音源と生楽器の相違。増幅と録音技術。頭声と胸声。各種母音の音響特性。様々な唱法。
（14） 期末試験（選択問題、ヒアリング有り、資料持込不可）
＜使用テキスト＞ ＜成績評価方法＞ ＜その他、教員からの要望事項＞
「楽器法 I」に準ずる。
＜参考図書＞
「楽器法 I」に準ずるが、打楽器については、網代景介・岡田知之共著『打楽器事典』（新版）が必読書として挙げられる（但し現在絶版）。
＜履修条件＞
「楽器法 I」の単位を取得していることが履修の前提となる。
「楽器法 I」は春学期のみ、「楽器法 II」は秋学期のみの開講なので、注意すること。
さらに、「楽器法 I」と「楽器法 II」の両方の履修が、「管弦楽法」などの履修条件となる。
＜他のシラバスへのリンク＞ 現代音楽史 楽曲分析 I & II 楽曲分析 III & IV
＜アーカイヴ＞
尚美学園大学 講義授業シラバス 2007 （川島素晴）