尚美学園大学 講義授業シラバス 2008 (川島素晴)

【水曜日】 III時限:楽曲分析 III & IV


楽曲分析 III <春学期>

<概要>
本講義では、ロマン派の黎明(1810年代)から19世紀後半までの音楽史における主なトピックを毎回のテーマとして設定し、
まずは授業冒頭で簡潔にその概論を踏まえる。
そして各回につき重要楽曲(あるいは特徴をつかみ易く、短時間での分析に適した楽曲)を1〜2曲採り上げ、楽曲分析を行う。
扱う楽曲が大規模なら全体構造の俯瞰、小曲なら詳細な分析を行う。
また、多数の楽曲を扱う場合は、和声的・構造的に特徴ある一部分を抽出して分析する。
クラシック専攻の学生はもとより、ポピュラー専攻であっても、本講義で扱う音楽の知識は不可欠であり、創作・演奏の一助となるであろう。

(1) 19世紀イタリアオペラの系譜
ロッシーニからヴェルディまでの系譜。『セビリアの理髪師』(1816)、『運命の力』(1862)、他。
[備考] アリアとレチタティーヴォの対比と和声分析。
 
(2) シューベルトのリート
『魔王』(1815)の復習。『冬の旅』(1827)の歌曲集全体の構成。『セレナード』(1928)の分析。
[備考] ドイツ語を歌うということ。長調と短調の交差。
 
(3) ベートーヴェンとシューベルトの晩年
『交響曲第9番』(1824)、『大フーガ』(1826)等。『弦楽四重奏曲第14番(死と乙女)』(1824)。
[備考] 対位法の実験。歌と器楽の融合による新境地。
 
(4) 標題音楽の概念
各種序曲、『真夏の夜の夢』(1826/42)、『幻想交響曲』(1830)、交響詩『前奏曲』(1853)等。
[備考] 劇付随音楽〜標題交響曲〜交響詩の登場まで
 
(5) 舞曲、性格的小品、組曲の系譜
『舞踏への勧誘』(1819)、『子供の情景』(1838)、無言歌集から『春の歌』(1842)、その他。
[備考] ワルツ『美しく青きドナウ』等も扱う。
 
(6) ショパンのピアノ曲
ピアノの完成とピアノ表現の確立。『革命』(1831)、『24の前奏曲』(1839)、『舟歌』(1946)等。
[備考] ピアノ表現の拡張と、和声語法の革新。
 
(7) シューマンの歌曲集と、その後のドイツリート
1840年に作られた多数の歌曲集を概観し、その中から、とくに歌曲集『詩人の恋』を採り上げる。
[備考] その他、ヴォルフのリートにも言及。
 
(8) ドイツロマン派の室内楽、協奏曲、交響曲の系譜
メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』(1844)、シューマン『ピアノ協奏曲』(1845)、ブルックナー等。
[備考] ウェーバーの協奏曲、初期ブラームスにも言及。
 
(9) ヴァーグナーの楽劇
全楽劇を概観し、『トリスタンとイゾルデ』(1859)について、前奏曲の分析と全体の俯瞰を行う。
[備考] ライトモチーフ。トリスタン和音。半音階和声。
 
(10) ソナタ形式の拡張と、リストのその後
『ピアノ・ソナタ』(1853)での長大な単一楽章。以後、晩年の『無調のバガテル』(1885)に至る道程。
[備考] ショパン、シューマンのソナタにも言及。
 
(11) ブラームスの交響曲と、それ以後の書法
『交響曲第1番』(1876)、『交響曲第4番』(1884)、『間奏曲op.119-1』(1892)等。
[備考] 発展的変奏。三度堆積和音の拡張。
 
(12) チャイコフスキーとロシア5人組
『交響曲第6番』(1893)等。他に『展覧会の絵』(1874)の和声、『シェエラザード』(1888)の旋法等。
[備考] バレエ音楽。ロシア民謡のメトリック。
 
(13) 19世紀の国民楽派
グリーグ『ピアノ協奏曲』(1868)、スメタナ『モルダウ』(1874)、ドヴォルザーク『新世界』(1893)。
[備考] アメリカ民謡(5音音階)。旋法としての導音。
 
(14) 期末試験(選択問題、資料持込不可)

<使用テキスト>
音楽史、楽式、和声についての知識不足を感じる者は、それらの復習を必ず行っておくこと。
毎回の資料は必要に応じて配布するが、配布物はどうしても楽曲の1部分になってしまう。
扱う楽曲の楽譜や音源については、できるだけ事前に全曲分を入手しておくこと。
(どれも比較的安価に購入できるし、本学メディアセンターでも大半が揃う。)

<履修条件(履修前提科目)>
作曲・メディアコースの平成17年度入学生で、平成19年度までに当該単位を取得できなかった者に対する開講となる。
ただし、平成18年度入学生で、「楽曲分析 I、II」の単位を取得した者については、
その延長線上にある当講義を積極的に聴講することを促したい。(単位としては認定されない。)
該当する時代の音楽史、及び楽式、和声についての知識が備わっているという前提で講義を行うので、原則としてそれらの知識が不可欠である。

<履修制限及び方法>
「楽曲分析 I、II」の既習者を前提とする。
該当する時代の音楽史、及び楽式、和声についての知識が備わっているという前提で講義を行うので、原則としてそれらの知識が不可欠である。
また、毎回の講義は相互に関連し、連続的であもある。1回の欠席は大きな損失であり、授業内でそのフォロウをする余裕はないことに留意。

<成績評価方法>
成績評価の90%は期末試験に基づく。試験内容が選択問題なので、授業にどれほど能動的に参加していたかが
客観的な数値として直接反映すると考えているためであり、出席を軽視しているのではない。
出席点も10%加味するが、単に出席するだけでなく、授業の場での見聞を経験値として蓄積して欲しい。

<その他、教員からの要望事項>
授業時間は限られているので、授業内に扱う楽曲全体を試聴できない場合が多いことが予想される。予習としてそれらの楽曲の全曲を、必ず楽譜を伴って鑑賞しておき、復習としてより詳細な分析をしつつ再度鑑賞すること。また、授業内で、話題に出すのみで分析対象として扱えない楽曲について、「楽譜を読みながら(=分析しながら)」鑑賞(更には自ら試奏)する機会を持つことが望まれる。


楽曲分析IV <秋学期>

<概要>
「楽曲分析 III」に準ずるが、本講義では、ロマン派の終盤である19世紀末(1890年代)から20世紀初頭(1910年代)までの時代を扱う。
この30年ほどの間に、各地で様々な展開が生じ、相互に影響しあいながら進んでいく様子を、多様な観点で分析していきたい。
(1910年代までに時代を限定しているので、各作曲家の代表作に言及できない場合がある。)
なお、ジャズ理論の大半はこの時代のクラシック音楽の試みを体系化したものであることを思えば、
ポピュラー専攻の学生にとっても必須な知識となるであろう。

(1) フランス国民音楽協会
サン=サーンス『交響曲第3番』(1886)、フォーレ『レクイエム』(1887)、及びフランクの循環形式。
[備考] 教会旋法の復権。倍音彩色としての管弦楽法。
 
(2) サティと、ドビュッシーの初期
『ヴェクサシオン』(1895)等、サティの諸作品における実験。『牧神の午後への前奏曲』(1894)の分析。
[備考] 並行和音。カデンツの自由化。新しい旋法。
 
(3) 印象派の系譜
前項以後、『遊戯』(1913)までのドビュッシーの系譜と、ラヴェル、ファリャ、レスピーギ等の1910年代。
[備考] 色彩的な管弦楽法と、響きの配列としての時間。
 
(4) スクリャービン
『ピアノソナタ第5〜10番』(1907〜13)、『法悦の詩』(1908)、『プロメテウス』(1910)等。
[備考] 神秘主義。神秘和音とその用法。MTL-2。『炎に向かって』(1914)。
 
(5) ストラヴィンスキーの3大バレエ
とくに、『ペトルーシュカ』(1911)、『春の祭典』(1913)の、和声とリズムについて分析する。
[備考] 多調と多層的リズム。原始主義、変拍子。
 
(6) マーラーの交響曲
『第1番』(1889)〜『第9番』(1910)までの系譜。テキストの位置づけと和声語法の変遷を中心に。
[備考] 『第5番』(1902)第4楽章は詳細に分析。
 
(7) リヒャルト・シュトラウス
『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』(1895)から『アルプス交響曲』(1915)に至る交響詩の系譜。
[備考] 前衛作曲家としてのシュトラウスに焦点を絞る。
 
(8) 独墺圏における半音階的和声法の拡張と、新ウィーン楽派
レーガーらの拡張と、『室内交響曲第1番』(1906)、『月に憑かれたピエロ』(1912)、『6つのバガテル』(1913)等。
[備考] 4度和声。室内歌曲。シュプレヒシュティンメ。極小様式。

(9) アメリカ実験主義の黎明と、その他のアヴァンギャルド
アイヴズ、カウエルによる、1910年代までの先駆的実験の概観、及びジャズの黎明。他、イタリアの未来派等。
[備考] ヴァレーズ。ルッソロの騒音芸術(1913)。
 
(10) ロマン派の継承者たち
プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』(1918)等オペラ作品。ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第2番』(1901)等。
[備考] とくに和声と管弦楽法について言及。
 
(11) イギリス音楽の系譜
エルガー『威風堂々第1番』(1901)、ホルスト『惑星』(1916)、その他ヴォーン=ウィリアムズ等。
[備考] 『火星』と『木星』については詳細に分析する。
 
(12) 20世紀の国民楽派と、バルトーク
シベリウス、ヤナーチェク、ファリャなど。バルトークにおける東欧リズムの影響と、黄金分割等の手法。
[備考] 他で扱えない1920年までの作品の補遺。和声と形式の理論。
 
(13) 新古典主義の黎明
『古風な舞曲とアリア第1集』(1917)、『古典交響曲』(1917)、『クープランの墓』(1919)等。
[備考] 過去の参照。楽想の簡明化と、形式の復権。
 
(14) 期末試験(選択問題、資料持込不可)
 
<使用テキスト> 
「楽曲分析 III」に準ずるが、「楽曲分析IV」で扱う楽曲は、場合によっては本学メディアセンターに所蔵していないものもある。
本来なら購入して用意するのが望ましいが、それが不可能な場合は、授業内での試聴機会を逃さないように。

<履修条件>
「楽曲分析 III」に準じ、昨年度までか、本年度春学期における「楽曲分析III」の既習者。

<成績評価方法> <その他>
「楽曲分析 III」に準ずる。



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<他のシラバスへのリンク> 現代音楽史  楽曲分析 I & II  楽器法 I & II



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