◆トランペット協奏曲 (2012)  

<初演>2012年6月6日(水) 杉並公会堂・小ホール
      曽我部清典&フレンズ 東京公演「今日まで、そして明日から・・・」
      
      トランペット:曽我部清典 ヴァイオリン:宗川理嘉 ピアノ:中村和枝

<初演時に配布されたパンフレットの原稿>

曽我部氏とのお付き合いは長い。初めて作品を演奏して頂いたのは1995年。その後コンスタントにご一緒する機会があり、これまでに初演して頂いた作品は16曲にも及ぶ。17年目の今年、17曲目として作曲したこの作品は、現代音楽、或いは金管五重奏団の活動を主軸にしてきた曽我部氏のこれまでの活動の中から、敢えてクラシック方面の活動にフォーカスしたものとなっている。今まで演奏してきたであろう、27人の作曲家による25の楽想を、走馬灯のように思い返すという仕立てで、それぞれの断片は次々引用&拡張され、徐々に細断化されていく。
「トランペット協奏曲」と言いつつ、伴奏はヴァイオリンとピアノのみ、協奏曲と称し得る最もミニマムな編成となっており、トランペットの奏でる音に(僅かな例外を除いて)完全にシンクロして動く和声的関係のみで構成されている。従って、独奏者が休む間は存在しない。超絶技巧(しかも名曲ばかりなので誤魔化せない)であり且つ休む間もなく10分以上吹き続けるこの作品、還暦を祝すはずのこの機に寄せるにしては鬼畜極まりない。が、これを吹く曽我部氏の姿は、還暦を翌日に控えた金管奏者とはとても思えず、17年間、一向に衰えを知らないスタミナとパワー、17年を通じて進化し続ける技術と音楽性、それを支える好奇心と探求心、そしてたゆまぬ努力に、脱帽である。

(より詳しい解説はこちら↓)


<より詳しい解説>

曽我部氏との出会いは、1994年、ある作曲家の二重協奏曲のソリストとして曽我部氏が出演する際に、エフェクターのペダル操作のアシスタントとして参加したのが初めである。ソリストの横にはりついて操作していたので、これは私自身にとって、オケの定期演奏会(大野和士指揮東フィル)で舞台に出た初の機会でもあった。今にして思えば、かねてより「ムジカ・プラクティカ」等、現代音楽分野での活動を行っていた曽我部氏が、本格的に現代音楽のスペシャリストとして歩みはじめる端緒となった時期に出会ったことになる。(確か、オール・コンテンポラリー・プログラムのリサイタルを行い始めた彼の、大阪公演の解説を書いたりもした。)
初めてめて作品を演奏して頂いたのは、1995年の五重奏曲「ポリプロソポス III」である。曽我部氏考案のヴァルヴ・スライド・トランペット「ゼフュロス
(*ちなみに、このリンクページにある音域表の譜例は私が作成したものである)と、ヴァイオリン、ティンパニ、篳篥、声という奇妙な編成で、声は自分で演奏したので、実質的に初共演の機会でもあった。(この作品は2013年3月21日に開催する作品個展で18年ぶりに再演予定で、それにも曽我部氏に出演して頂く。還暦に寄す新作を作曲する同じ年度に、出会った最初の頃の作品の再演をして頂くというのは、感慨深いものがある。)
その後、上記のように、16年間で16曲の初演をして頂いたわけだが、純粋な独奏曲は少なく、小品を除けば、「ポリプロソポス IIb 」という、3本のトランペット(ナチュラル・トランペット、ミュートを駆使する普通のトランペット、スライドトランペット)をスタンドに固定して三角形に配置し、その中を回転しながら次々吹き続ける、超絶技巧のものしか存在しない。この曲は、技術的にも体力的にも、また、スタンド3本に楽器を固定するという仕掛けの面でも、あまりにも上演困難なので、少なくともリサイタルの演目としてプログラミングするのは無謀である。
還暦を祝して、出会って17年目の今年に17曲目として作曲するにあたり、もっと普通に上演できる作品を、という主旨もあり、敢えてゼフュロスではなく普通のトランペットで、しかも、クラシック方面のレパートリーにフォーカスする作品を構想した。
「27人の作曲家による25の楽想」とは、次のようなものである。

1) メンデルスゾーン「結婚行進曲」(「真夏の夜の夢」より)/マーラー「交響曲第5番」第1楽章の、それぞれ冒頭部分
2) ムソルグスキー(ラヴェル編曲)「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミイレ」(「展覧会の絵」より)の「シュミイレ」部分
3) ロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」の冒頭ファンファーレ
4) ヘンデル「アラ・ホーンパイプ」(「水上の音楽」より)の第2動機
5) オルフ「たとえこの世界がみな」(「カルミナ・ブラーナ」より)冒頭ファンファーレ
6) リヒャルト・シュトラウス「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」ティルの笑いのテーマ
7) J.S.バッハ「ガボット」(「管弦楽組曲第3番」より)冒頭部分
8) カバレフスキー「ギャロップ」(組曲「道化師」より)メインテーマ
9) ハイドン「トランペット協奏曲」第1楽章の第1主題の一部
10) ワーグナー「タンホイザー」第2幕冒頭のファンファーレ
11) チャイコフスキー「交響曲第4番」第1楽章のファンファーレ主題
12) リムスキー=コルサコフ「シェエラザード」第4楽章のシャーリアル王主題
13) ストラヴィンスキー「王の行進曲」(「兵士の物語」より)メインテーマ
14) ドヴォルジャークスラヴ舞曲第4番」メインテーマ
15) パーセル「トランペット・チューン」(歌劇「インドの女王」より)メインテーマ
16) ドビュッシー「交響詩《海》第2楽章」中盤の音型
17) コダーイ「ウィーンの音楽時計」(「ハーリ・ヤーノシュ」より)メインテーマ
18) フンメル「トランペット協奏曲」第3楽章終盤部分の一部
19) ホルスト「火星」(組曲「惑星」より)第2主題の挿入句
20) ベルリオーズ「断頭台への行進」(「幻想交響曲」より)メインテーマ
21) アンダーソン「トランペット吹きの子守唄」メインテーマ
22) レスピーギ「ローマの祭り」第1楽章ファンファーレ
23) ベートーヴェン「交響曲第9番」第4楽章の最終部分
24) ショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲第1番」第4楽章の最終部分
25) ヴェルディ「運命の力序曲」冒頭部分

各部分は、これらの原曲を素材に拡張されている。ヴァイオリンとピアノは、一部の例外を除いてトランペットに完全に同期し、和声的関係を示すのみである。一巡した後は、再びこのサイクルを繰り返すが、徐々に短くなっていく。5巡目では一瞬の断片となり、6巡目はそれが更に圧縮される。このような状態に至ると、演奏者のアクションそのものの変化を体感することとなる。
なお、このようなアイデアは、私の作品ではしばしば実践されてきたが、ここまで名曲断片ばかりを用いた例は、「Manic-Depressive III」(1999)という、2台のピアノと管弦楽の作品の第1楽章「Manic」において実践したのみであり、今回はその室内楽による初の実践例となる。






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