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eX.(エクスドット)では、これまでに様々な内容をお届けしてきたが、12回目となる今回は、ことのほか特別な内容となっている。
川島素晴による書き下ろし舞台作品、モノドラマ《孤島のチェロ》の上演である。
一晩の演奏内容がチェロ独奏のみで構成されるこの作品は、孤島に独り住む者が、漂着したチェロを見て何を奏でるか、という想定で書かれている。
川島はかつて、同じ着想による《孤島のヴァイオリン》(1991) という作品を発表しているが、それは8分程度の、作曲者自らが上演するパフォーマンス作品であった。
それから18年を経た今、そのアイデアを拡張し、10倍以上の上演時間となる壮大なモノドラマを構成した。
漂着したチェロは、まずは「物体」として扱われる。やがて、様々な異物を用いて発音することを試みていく中、別の場所に漂着していた弓を発見する。
チェロ演奏の歴史を全く関知しない人物による自己完結的な営為にこそ、新しいチェロ音楽の可能性が示されるであろう。
これは、モノドラマであると同時に、現代奏法を探求した壮大なチェロ組曲でもある。
演奏には、かつて当eX.シリーズで、チェロ史上最難曲、ファーニホウ《Time and Motion Study II》の日本初演に挑んでもらった多井智紀氏を迎える。
あらゆる現代奏法を熟知し、しかもバロックチェロやガンバすら演奏するオールマイティーな人物の、その経験値を果たして作曲者は超えられるか……これは一種の挑戦状である。
そしてこの舞台作品の上演に、アーティスト・岩崎秀雄氏の作品をご提供頂く。
抽象的な切り絵表現と、バクテリアが織り成すバイオメディア・アートとの融合は、根源から音楽表現を問い直そうとする今回の音楽作品と、問題を共有していると考えた。
併置されることで、一層豊かな体験・思索をもたらしてくれると確信する。
多井智紀 / Tomoki TAI =演奏 | |
1982年大阪生まれ。主にチェロ奏者として新作演奏やスタジオワークを開始させ、 |
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岩崎秀雄 / Hideo IWASAKI =美術 岩崎秀雄研究室 Art (English) | |
1971年東京生まれ。早稲田大学理工学術院 准教授。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員,名古屋大学大学院理学研究科 助手を経て,2005年より現職。2007年より日本科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)。生物に観られるダイナミックな時空間パターン形成(体内時計と形態形成)の原理を,できるだけ単純な解析しやすい生物(シアノバクテリア)を用いて解析している。その傍ら,幼少時より切り絵を創っており,現代美術における切り絵造形の可能性を模索するとともに,主宰する生物学研究室を一部アトリエ化することで,生命科学と美術の新たな境界領域(バイオメディア・アート)の創作・研究を展開している。SICF(2008, 2009),ハバナ・ビエンナーレ(2009)などに出展,2010年にはオランダ・ペーパービエンナーレへの出展やリンツ(オーストリア)での個展などを予定している。美術分野でトヨタ美術展優秀賞(2004),SICFリクター賞(2008),生命科学分野で井上研究奨励賞(2003),日本時間生物学会奨励賞(2004),文部科学大臣表彰若手科学者賞(2008)を受賞。 |
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岩崎秀雄 : 切り絵作品「Metamorphorest II」(2009) 岩崎秀雄 : 切り絵とバイオメディア・アートとの融合作品「Metamorphorest III」(2009) |
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川島素晴 / Motoharu KAWASHIMA =作曲 川島素晴情報館 | |
1972年東京生まれ。東京藝術大学卒、及び同大学院修了。秋吉台国際作曲賞(1992)、ダルムシュタット・クラーニヒシュタイン音楽賞(1996)、芥川作曲賞(1997)、他。「演じる音楽」を提唱して作曲活動を行い、2000年には作品集CD「ACTION
MUSIC」を発売。これまでの作曲活動と、eX.等の企画活動に対して、2008年度中島健蔵音楽賞を受賞。 |
◆川島素晴 / 孤島のチェロ (2009/初演) *全3部構成、休憩を2回挟みます。 |
作曲者・川島素晴と出演者・多井智紀による、今回の作品におけるチェロの奏法について、
及び、今回の舞台におけるアートワークを担当する岩崎秀雄によるプレトーク。