尚美学園大学 講義授業シラバス 2007 (川島素晴)

【金曜日】 III時限:楽曲分析 I & II


楽曲分析 I <春学期>

<概要>
本講義では、西洋音楽の黎明からJ.S.バッハまでの音楽史における主なトピックを毎回のテーマとして設定し、まずは授業冒頭で簡潔にその概論を踏まえる。
そして各回につき重要楽曲(あるいは特徴をつかみ易く、短時間での分析に適した楽曲)を1〜2曲採り上げ、楽曲分析を行う。
扱う楽曲が大規模なら全体構造の俯瞰、小曲なら詳細な分析を行う。
また、多数の楽曲を扱う場合は、和声的・構造的に特徴ある一部分を抽出して分析する。
この講義内容には、ポリフォニーからホモフォニーへの展開と、それらにおける大半の基礎的書法が含まれており、あらゆる音楽理解の基本となるであろう。

(1) ガイダンスと、西洋音楽史外の音楽
「楽曲分析」とは何か、何をなすべきか。基礎知識の確認と、授業の展望の概観。古代ギリシャの音楽と各種民族音楽。
[備考] 様々な音楽への関心と探求、解析と吸収。
 
(2) グレゴリオ聖歌とヒルデガルド・フォン・ビンゲン
単旋律の可能性。西洋音楽の原点としての位置。各種教会旋法とその用法。トロープス、メリスマとセクエンツィア。
[備考] ネウマ。(参考)オラショ変容過程の分析。
 
(3) ノートルダム楽派、世俗歌曲
オルガヌム等、対位法の黎明とその発展。ロンデル等の形式について。ホケトゥスの技法とリズムの複雑化について。
[備考] トルヴェール、アルス・アンティクァ。カノン。
 
(4) ギョーム・ド・マショー
マショー『ダヴィデのホケトゥス』におけるイソリズム。3声のロンドー『わが終わりはわが初め』の逆行カノン等。
[備考] 他に『ノートルダム・ミサ』の構成について。
 
(5) 中世末期の諸傾向
トレチェント様式。アルス・スブティリオールに見る究極のリズム語法。ダンスタブルによる三和音の導入とカデンツ。
[備考] ランディーニ終止。
 
(6) ルネサンス音楽
デュファイの循環ミサ。オケゲム。ジョスカンの通模倣様式。導音とムジカ・フィクタ。ジャヌカンの表題シャンソン。
[備考] ラッスス。パレストリーナ対位法の概要。
 
(7) ルネサンスの実験
ジェズアルドの半音階的和声法と不協和音。タリスの40声のモテット。ガブリエリの二重合唱と強弱指示。
[備考] ブルの器楽曲。バード。ダウランド。
 
(8) バロックオペラの成立と展開
デクラマシオンからバロックオペラへ。モンテヴェルディ『オルフェオ』(1607)にみる不協和音の用法。
[備考] ペルゴレージ。シュッツの『マタイ』にも言及。
 
(9) バロック期における器楽音楽の発展
バロックソナタの系譜。コレッリ『ラ・フォリア』の変奏。D・スカルラッティの諸作品。マレ等フランスの器楽曲。
[備考] 『カノン』。ラモーの和声学。
 
(10) バロック協奏曲
ヴィヴァルディ『四季』(1725)全曲を、ソネットとの関連を踏まえて分析する。合奏協奏曲の様々な形態。
[備考] リトルネッロ形式。通奏低音の用法。
 
(11) J.S.バッハ-1
『平均律クラヴィア曲集第1巻』(1723)全体の構成。及び、『カンタータ第147番』(1723)について。
[備考] 実は「平均律」ではない調律。コラールの分析。
 
(12) J.S.バッハ-2
『マタイ受難曲』(1729/36)全体の構成と重要部分の分析。ルネサンス〜バロックの様々な技法の集大成として。
[備考] オラトリオと受難曲。教会カンタータ。
 
(13) J.S.バッハ-3
『音楽の捧げ物』(1747)に見る、対位法技法の集成。様々なカノンの技法、フーガ、トリオ・ソナタ等。
[備考] 「大王のテーマ」の歴史。『フーガの技法』。
 
(14) その他のバロック期の作曲家
フレスコバルディ、クープラン、ブクステフーデ、パーセル、アルビノーニ、テレマン、ヘンデル、タルティーニ、等。
[備考] 扱えなかった作曲家から代表曲をピックアップ。
 
(15) 期末試験
筆記試験。
 
<使用テキスト>
音楽史、楽式についての知識不足を感じる者は、それらの復習を必ず行っておくこと。
毎回の資料は必要に応じて配布するが、配布物はどうしても楽曲の一部になってしまう。
扱う楽曲については、できれば事前に全曲入手してもらいたいが、「楽曲分析I」で扱う楽曲は、本学メディアセンターに所蔵していないものもある。
各自入手することが望ましいが、不可能な場合は、授業内での試聴機会を逃さないように。

<履修条件、教員からの要望>
授業時間は限られているので、授業内に扱う楽曲全体を試聴できない場合が多いことが予想される。
予習としてそれらの楽曲の全曲を、必ず楽譜を伴って鑑賞しておき、復習としてより詳細な分析をしつつ再度鑑賞すること。
ピアノ曲であれば試奏を、また合奏曲であればスコアリーディングをしておければ、なお理解が深まるであろう。
それが困難な学生は、自ら音源を作成してみるのでもよい。

<履修制限及び方法>
「楽式論」の既習者を前提とする。また、「西洋音楽史 I」も既習であることが望ましく、単位未取得者は同時履修すること。
該当する時代の音楽史、及び楽式、和声についての知識が備わっているという前提で講義を行うので、原則としてそれらの知識が不可欠である。
また、毎回の講義は相互に関連し、連続的であもある。1回の欠席は大きな損失であり、授業内でそのフォロウをする余裕はないことに留意。

<その他>
授業内で、話題に出すのみで分析対象として扱えない楽曲について、更に、できるだけ多くの関連楽曲について、
「楽譜を読みながら(=分析しながら)」鑑賞(更には自ら試奏)する機会を持つことが望まれる。
また、本講義の前半で扱う楽曲は普段馴染みの少ないものも多かろうが、これらは実はジャンルを超えた現代の様々な音楽に転用されている。
そのオリジナルを知ることは、必要不可欠と言えよう。


楽曲分析 II  <秋学期>

<概要>
本講義では、いわゆる古典派の音楽を扱う。毎回のテーマを設定し、まずは授業冒頭で簡潔にその概論を踏まえる。
そして各回につき重要楽曲(あるいは特徴をつかみ易く、短時間での分析に適した楽曲)を1〜2曲採り上げ、楽曲分析を行う。
扱う楽曲が大規模なら全体構造の俯瞰、小曲なら詳細な分析を行う。
また、多数の楽曲を扱う場合は、和声的・構造的に特徴ある一部分を抽出して分析する。
この講義で扱う楽曲には、西洋音楽の主要なレパートリーを多く含み、そして和声的、形式的な分析の基礎を形成する過程として重要な内容となる。
常識として必要不可欠である故、取りこぼしのないように。
 
(1) ガイダンスと、バロック末期の補遺
基礎知識の確認と、「楽曲分析I」でフォロウしきれなかったバロック末期の作曲家の補遺。
[備考] 楽式論、及びハーモニーの知識の確認。
 
(2) 前古典派
ロココ様式、ギャラント様式、多感様式(疾風怒濤)。主としてC・P・Eバッハの『シンフォニア』について言及。
[備考] 交響曲の成立過程。シュターミッツ。
 
(3) ハイドン-1
交響曲の完成。ソナタ形式の楽章構成。初期から交響曲第45番『告別』(1772)までを見る。
[備考] 創作上のウィットと、独自な時間構造について。
 
(4) ハイドン-2
交響曲第90番(1788)、交響曲第94番『驚愕』(1791)、交響曲第103(1795)等を見る。
[備考] その他の交響曲についても概観する。
 
(5) ハイドン-3
ピアノソナタ、弦楽四重奏曲、オラトリオなど、その他のジャンルについてもその確立の過程を見る。
[備考] 『天地創造』(1798)等について。
 
(6) モーツァルト-1
ピアノソナタ、弦楽四重奏曲など、ハイドンからの継承と独自性。セレナードや室内楽の発展、拡張。
[備考] 『トルコ行進曲付』、『不協和音』。
 
(7) モーツァルト-2
協奏曲と交響曲について。交響曲第40番(1788)、ピアノ協奏曲第27番(1791)を中心に。
[備考] (参考)モーツァルトとクラリネット。
 
(8) モーツァルト-3
オペラの系譜。『フィガロの結婚』(1786)と『魔笛』(1791)を中心に。(ドイツ語によるオペラの誕生。)
[備考] ブッファとセリア、ジングシュピール。
 
(9) モーツァルト-4
『レクイエム』(1791)について。レクイエムの形式と、モーツァルトの晩年。バセットホルン等編成の特質。
[備考] その後の時代の『レクイエム』の系譜。
 
(10) ベートーヴェン-1
ピアノソナタ第1番(1794)、弦楽四重奏曲第1番(1802)など、初期作品の分析。
[備考] 典型的なソナタ形式の完成。
 
(11) ベートーヴェン-2
ピアノソナタ第8番『悲愴』(1798)など、楽曲全体を構成する手法への展開。
[備考] 循環する主題と、先行楽章の回想。
 
(12) ベートーヴェン-3
ベートーヴェンの変奏曲の系譜と、交響曲第3番『英雄』(1804)について。
[備考] 『創作主題による32の変奏曲』。葬送行進曲。
 
(13) ベートーヴェン-4
交響曲第5番『運命』(1808)についてと、ベートーヴェンの協奏曲の系譜。
[備考] 動機、全体の調設定。協奏曲のカデンツァ。
 
(14) ベートーヴェン-5
交響曲第6番『田園』(1808)。絶対音楽と標題音楽、及び、「標題交響曲」について。
[備考] 管弦楽による描写的表現の系譜。
 
(15) 期末試験
筆記試験。
 
<使用テキスト>
音楽史、楽式についての知識不足を感じる者は、それらの復習を必ず行っておくこと。
毎回の資料は必要に応じて配布するが、配布物はどうしても楽曲の一部になってしまう。
扱う楽曲については、できるだけ事前に全曲入手するように。(「楽曲分析II」で扱う楽曲は、本学メディアセンターに所蔵している場合が多い。)

<履修条件及び教員からの要望>
授業時間は限られているので、授業内に扱う楽曲全体を試聴できない場合が多いことが予想される。
予習としてそれらの楽曲の全曲を、必ず楽譜を伴って鑑賞しておき、復習としてより詳細な分析をしつつ再度鑑賞すること。
ピアノ曲であれば試奏を、また合奏曲であればスコアリーディングをしておければ、なお理解が深まるであろう。
それが困難な学生は、自ら音源を作成してみるのでもよい。

<履修制限>
「楽曲分析I」に準じるが、「楽式論」の知識はここではとりわけ重要になる。

<その他>
「楽曲分析I」に準じる。



尚美学園大学 講義授業シラバス 2007 (川島素晴)

<他のシラバスへのリンク> 総合演習  楽曲分析III & IV  楽器法