◆4つのインヴェンション (1994/95/2004/05)
  4 Inventions                   ・・・上演曲数に応じて「○つのインヴェンション」となる。
 ・インヴェンション Ia「音色と表意の可能性」(1994)[vocal, large timpano]
           *Ib (2004)[vocal, frame drum]
 ・インヴェンション II 「<音節→単語>と<音高→旋律>の連関」(1995)[baritone, vibraphone]
 ・インヴェンション III「発話と模倣の位相」(2004)[baritone, trumpet in C, talking drum]
           *IIIb(2006)[sop, trbn]
 ・インヴェンション IV「器楽音とオノマトペ」(2005)[vocal, trumpet in C, contrabass]
<演奏所要時間>I=4~5分 II=5分半 III=5分半 IV=6分半 
     「2つのインヴェンション」(I - II)11分
     「3つのインヴェンション」(I - III)17分
     「4つのインヴェンション」(I - IV)23分

<委嘱>松平敬(III)
<初演>
 [I] 1994年10月18日 東京藝術大学第1ホール 歌曲作品演奏審査会
      vo:川島素晴 timp:神田佳子
 [II] 1995年10月17日 東京藝術大学第1ホール 歌曲作品演奏審査会
      bar:川島素晴 vib:神田佳子
 [III] 2004年4月23日(金) 北とぴあ・つつじホール 「松平敬バリトンリサイタル~ことばから声へ、声から響きへ
      bar:松平敬 trp:曽我部清典 talking drum:神田佳子
 [Ib] 2004年10月23日(土) 神戸・クレオール 「辺見康孝&太田真紀ジョイントライヴ
      vo:太田真紀 frame drum:川島素晴
 [IV] 2005年6月29日(水) すみだトリフォニーホール(小) Ensemble Contemporary αリサイタルシリーズvol.17
      「曽我部清典&柳澤智之デュオリサイタル(川島素晴プロデュース)
      vo:川島素晴 trp:曽我部清典 cb:柳澤智之
 [IIIb] 2006年2月2日(木) ISHIMORIイベントスペース 「村田厚生&太田真紀ジョイントライヴ
      sop:太田真紀 trbn:村田厚生

<再演記録>
 ・1995年12月4日 バンコク・チュラロンコン大学講堂 ACLバンコク大会
                      「Exchange Concert by the Ensemble Contemporary α」
   「2つのインヴェンション(II&I)」 vo:川島素晴 perc:神田佳子
 ・1996年10月31日(木) 日暮里サニーホール
                      「Dogen features 川島素晴」(木ノ脇道元による川島作品展)
   「インヴェンション I」 vo:木ノ脇道元 timp:神田佳子
 ・1996年12月 すみだトリフォニーホール(小) 「ISCM/ACLの夕べ」
   「2つのインヴェンション(II&I)」 vo:川島素晴 perc:神田佳子
 ・2001年 大阪 「ensemeble conceptual ライヴ」
   「インヴェンション I」 vo:三上良太 frame drum:****
 ・2004年4月23日(金) 北とぴあ・つつじホール 「松平敬バリトンリサイタル~ことばから声へ、声から響きへ
   「3つのインヴェンション(I-III)」bar:松平敬 trp:曽我部清典 talking drum:神田佳子
 ・2004年8月26日(木) 愛媛県・新居浜市市民文化センター大ホール 「曽我部清典サマーコンサート」
   「インヴェンション III」bar:松平敬 trp:曽我部清典 talking drum:中川俊郎
 ・2005年2月10日(木) 公園通りクラシックス 「双子座三重奏団 聖ヴァレンタインライヴ
   「インヴェンション III」bar:松平敬 trp:曽我部清典 talking drum:中川俊郎

<放送>・2005年11月27日(日)18:00-18:50
       NHK-FM「現代の音楽」~日本の作曲家/川島素晴(2)詳細情報+放送音源(モノ)>
       2004年4月23日北とぴあ、及び 2005年6月29日すみだトリフォニーホールのライヴ音源



<2004年、松平敬リサイタルで配布した解説>

 の作品の発端は、私が大学4年生だった頃の提出作品である。「日本歌曲」という提出課題を前に、私は、既成の日本語詩に単に付曲することを選ばず、「日本語の歌唱」そのものに対する真摯な考察を試みようとした。第1曲は、「は」と発音する漢字を並べただけのテキストを用いて、ひとつのシラブルが多様な意味を持ち得るという、表意文字としての漢字の特色に着目した作品である。声は様々な唱法で「は」の意味を解釈して発音し、ティンパニもそれに対応するかたちで様々な奏法で発音する。余談ではあるが、私はこの作品が「不可」となって、それだけの理由で留年となってしまった。

<第1曲テキスト>

葉  羽  叵 把 / 覇  巴  壩 吧 刃 豝 叭 芭 / 葩  頗  爬 玻 /

 疤  琶 歯 派 跛 簸 / 爸 耙 欛 吧 碆 菠 杷 怕 笆 弝 坡 陂 靶 鈀 破 / 波  端

 

 2曲は、芸大の再提出課題として、性懲りもなく不可になった第1曲の続編を構想した。(1995年当時)存命中の日本の詩人の詩から、「名詞」のみを抽出してテキストとし、それに淡々と旋律を当てはめていく。そしてそれに、完全に同期するかたちでヴィブラフォンが和声付けを施していく。全て1単語のみがコラージュされるので、結果的にコンテキストはなくなるが、原詩の中で語られるであろうニュアンスだけは抽出され、毎語ごとに表情は変化していくことになる。余談ついでに付記すると、この作品は、何故か「可」がついて、卒業できることとなった。音程と和声があったからであろうか?
 <第2曲テキスト>
 椅子 / 前橋市 / 気違いフルート / 延長線上 / 川面 / 中島みゆきさん / 魚眼レンズ / 与太者 / 流動質 / 圧殺 / 棲家 / きぶりもさずき
 隠し味 / 大陸横断鉄道 / 寝ぼけ面 / 鳥たち / チャンチャンコ / 火種 / 花鳥風月 / 雪駄
 収奪者 / 土管 / 木乃伊 / ひとにぎり / 輪郭 / 蜘蛛の巣
 垂れ流し /    鳥籠
 ミルク断食療法 / 清潔 / 半透明 / 山火事 / 種無し葡萄
 馬鹿者
 射程距離 / 郭 / 借金取り / カトキチ冷凍エビフライ / 襞 / 宙吊り / 大腿骨 / 一輪挿し / 知らん顔 / 二号さん / オテンバゴリラ
 風見鶏 / 首吊り死体 / 賑わい / 茜色
 本当? / 全感覚ウォークマン / 導尿管 / 川底 / グロットマンティカ

その後上記2曲のセットは、バンコク、東京で再演(自作自演)したし、第1曲は、フルーティスト木ノ脇道元をはじめとする自分以外の演奏者によっても何度か演奏されてきた。今回、松平氏のリサイタルを一緒に企画するにあたり、この連作の新しい曲を作曲することを考えた。(構想だけは、1994年の当時から存在してはいたのだが。)

3曲は、「一音節」→「単語」と進んできたこの連作の続編であるわけだから、当然、扱う内容は「文章」となる。しかし、やはり注意したのは、それができるだけ連続的なコンテキストを形成しないこと、であった。その結果、バラバラなシチュエイションにおける「発話」の情景をコラージュすることになった。それに対して、プランジャーミュートを駆使するトランペットとトーキングドラムが、それぞれのやり方で模倣することを試みる。それは完全であったり、不完全であったり、或いは、そもそも模倣を放棄していたりもする。更には、語り手より前に「語る」瞬間もある。余談ついでに付記するなら、この作品は、自分が審査員であっても、「日本歌曲」の提出課題としては「不可」にするであろう。

<第3曲テキスト>(*当日配布時は抜粋で掲載)
  「開演に先立ちまして、皆様にお願い申し上げます。」(影アナウンス)
  「えー、声門の開閉運動によって生じる、声帯の周期的振動は、声道の空気を強制振動させまして、様々な波形を伴って、外部に放射されるわけです。」(音響生理学の講義)
  「ご一緒に、チキンナゲットはいかがですか?」(ファーストフード)
  「本日の催し物会場は、誠に勝手ながら、午後4時をもちまして、閉場させて頂きます。」(デパート)
  「あ、宅急便です、印鑑かサインお願いします。」(宅配業者)

  「溶き卵を『のの字』を書くように落とし、三つ葉を乗せ、外側が固まればできあがりです。」(料理番組)
  「6年生の お兄さん、お姉さん(=楽器のみ発音し、口パク)、ご卒業、おめでとうございます。」(小学校卒業式送辞)
  「午後8時15分40秒(=その時の時刻を言う)をお知らせします。」(時報)
  「政府の横暴を許すなぁ~!」(市民団体シュプレヒコール)
  「あなたは、健やかなるときも、病めるときも、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命の限り固く節操を守ることを、誓いますか?」(神式結婚式)
     ・・・(トランペット奏者が)「はい、誓います。」
  「あったかい、お芋はいかがですか~。」(石焼き芋屋台)
  「テレビの前のみんな、こんにちは。」(子供番組)
  「手を挙げろ!」(強盗)
  「次は、王子、王子です。(=その演奏会場の駅名などを言う)」(電車の車内アナウンス)
  「もしもし、今日は、外壁塗装工事のご案内で、お電話させて頂きました。」(テレフォンアポインター)
  「どこか痒いところはございませんか?」(理容室)
  「打った、大きい、延びる、延びる、右中間スタンド一直線、入ったぁ~ 満塁ホームラン!」(野球中継)
  
「はい、では、裏返しにして、後ろから集めて下さい。」(学校のテスト)
  「皆様、ただいま右手に見えてまいりましたのは、右手でございます。」(バスガイド)
  「主文、被告人を、懲役20年に処する。」(裁判の判決)
  「お待たせいたしました、番号札265番でお待ちのお客様、3番カウンターまでお越し下さいませ。」(銀行)
  「チケットある人、買うよ~。」(ダフ屋)
  「本日、特売コーナーにおきましては、牛乳1パック98円、お一人様2本限定でのご奉仕とさせて頂きます。」(スーパーマーケット)
  「いよっ、日本一!」(客の歓声)
  「今日の東京株式市場は、米国市場の反発を受けて買い先行のスタートとなったものの、その後は小幅な値動きに終始しました。」(株式ニュース)
  「お客さん、こういうとこ、初めて?」(風俗嬢)
  「金利、分割手数料は全て当社負担、今回限りの特別ご奉仕価格です。(傍線部口パク)」(テレショップ)
  「先手、四3歩、成る。」(将棋)
  「こちら、メインディッシュの天然瀬戸内産、鯛のポワレ、フォン・ド・ヴォー・ソースでございます。」(ギャルソン)
  「雪深い城下町を抜けた、山の麓の鄙びた一画に、人情味溢れる湯煙の郷を見つけました。」(旅番組ナレーション)
  「ええ、国民一人一人が、自律的で且つ社会的責任を持った主体であるという意識を根底に持ちながら改革が行われることで、21世紀の国家の展望が開かれるものと、確信を確信を致します。」(国会)
  「本日の司会進行は、いかりや長介でございました。」(司会~いかりや長介)
  「だめだこりゃ。(口ぱく)」(いかりや長介)

・・・なお、最後は、2004年4月当時、亡くなったばかりの偉大なコメディアンへのオマージュとして選択された。

<2005年、曽我部&柳澤デュオリサイタルで配布した解説(「インヴェンションIV」について)>

 (前略 ~I-III までの概略を記述。)
 今回作曲した「インベンション IV」は、「インヴェンション III」が楽器で発話を模倣したのとは逆に、楽器が発する音を声が模倣する。私自身が演じる「模倣人形」が2人の楽器奏者に操られているが、やがて「人形」は意志を持ち始める。調子に乗ってると・・・所詮、人形は人形なのである。(今回の出演者とプロデューサーの関係を象徴している…わけではない。)ところで、この作品は、日本語の発話の可能性を探求するシリーズの一環であるが、果たしてこれは「日本語」なのか?…擬音語、擬態語(オノマトペ)が世界各国で異なるように、楽器音の模倣の感覚も、日本人ならではなのであり、そしてそれが別の単語を彷彿とさせたりする感覚も含めて、やはりこれは「日本語」なのである。
 
(「インヴェンションIV」視覚情報の補足)
 冒頭、川島(模倣人形)のみ中心に棒立ちしている。そこに上手(かみて)からコントラバスがやってきて、音を出す。すると模倣人形は反応して音を出し始める。しばらくすると下手(しもて)からトランペットも登場。それぞれの発する音に反応する中、人形は、徐々に自我が芽生えてくる。後半、ロックのリズムになると、人形は積極的に音楽を主導し始め、のりのりで楽器奏者に指示を出し、シャウトしだす。しかし、人形はやがて壊れ始め、暴走し、最後には制御不能になってぶっ倒れる。
 本番当日は、ロックになった辺りまでマントを着ていて、ここからマントを外すとヘヴィメタ系の髑髏の黒シャツを着ている、という仕掛けだった。
 最後、終わったときは、本当に力尽きていた。段取りとしては、その倒れた状態のままホールから運び出されることになっていたのだが、曽我部、柳澤の両名が、容赦なくアンコールを始めて、僕は死に物狂いでそれに反応し、むくむくっと起き上がってまた叫びかけ、しかし力尽きる・・・などという展開を、2度くらいさせられる羽目に。ああ、しんどかった。。。
 この、後半のロックになる部分は、映画『スクール・オブ・ロック』の影響である。


<「インヴェンション Ib」について>

 そもそも、三上良太君が、2001年に僕の『インヴェンション I』と『視覚リズム法 Ia』を、主宰するアンサンブル、emsemble conceptual のライヴで上演した際、ティンパニの調達が難しいということを相談され、そのときに代用として提案したのが、フレームドラムを用いるヴァージョンであった。たまたま僕が所有していた径の大きなフレームドラムがあったので、それを渡して、アンサンブルの打楽器の子と一緒に上演したはずである。(このライヴには自分は参加できなかった。)
 そのときは、きちんと代奏用の指示をこちらからしなかったので、適宜編曲したのだと思うが、2004年に太田真紀と上演した際も、やはりティンパニの調達の困難さもあって、この「フレームドラム版」にすることとした。ただ、よくよく考えてみれば、女声とのアンサンブルの場合、ティンパニはバランス的にちょっと重い。だから、女声の場合は、この「フレームドラム版」の方がむしろ適切である。

<「インヴェンション IIIb」について>

 原作では、bar, trp, talking drum のトリオであったが、この版ではバランス等を考慮して、敢えて打楽器を抜いたデュオとした。同じコンサートにおける別の新作の完成が押したために、演奏者の村田厚生、太田真紀の2名による編曲作業に近い状態でこの版は確定された。原作のエンディングである「いかりや長介」は、亡くなってからしばらく経ったということと、女声版ということで、変更することになり、この時は、レイザーラモンHGの登場となった。その他、「駅名アナウンス」、「時報」等は、TPOによって変更が可能である。

(2005年11月27日記・2006年2月3日補筆)