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2007年4月から始められたeX.(エクスドット) のシリーズ、8回の東京公演を開催してきた中には、 シュトックハウゼン、ファーニホウ、ケージ、湯浅譲二といった現代作曲家の個展企画も含まれていました。 9回目となる今回は、1978年に40歳を迎えることなく夭逝した作曲家、甲斐説宗の個展を開催致します。 その早すぎる晩年に到達した、切り詰められた音素材が淡々と歩む作風は、 音への真摯な探求が導いた無二の音世界であり、最晩年の数曲が示す完成度は、 同じ頃にフェルドマンが到達する語法と比肩し得るもので、国際的にも重要な存在です。 しかし、それを解する限られた層の絶大な評価を得つつも、今日に至るまで、一般的には正当な評価を得ていないと言わざるを得ません。 実は甲斐個展企画については、ちょうど10年前の生誕60年の機会にも、 演奏会とシンポジウムなど、5日間に及んで盛大に開催しました。→1998年の詳細 それから10年を経て、今一度甲斐説宗を取上げたのは、まず彼の作品を知らない世代に聴いてもらいたいという気持ち、 そして21世紀にもなお甲斐の音楽が新しく響くことの証として、今回集った編成のための編作した版の「初演」も試みます。 演奏者として迎えるのは、まずは、若手で最も甲斐作品を上演している木ノ脇道元さんと、彼率いるフルート四重奏「Nozzles」。 作曲者の弟がフルーティスト甲斐道雄であるため、寡作な中にもフルート作品は多く、今回は事実上、「甲斐説宗フルート作品展」でもあります。 4名が分担演奏する中でも注目は「メゾソプラノとフルートのための音楽」を、声楽もこなす古田土さんの歌でお聴き頂くことでしょう。 なお木ノ脇さんによれば、Nozzles 結成のきっかけが甲斐説宗の「4人のフルート奏者と1人の打楽器奏者のための音楽」を いつか上演したいからだったそうで、打楽器の神田佳子さんのサポートも得て、思いのこもった演奏が期待されます。 もう1グループは、ヴァイオリンの甲斐史子さんとピアノの大須賀かおりさんとのデュオ「ROSCO」です。 10年前、亡父の個展で一夜を担当したのが、リサイタルデビューとなった甲斐史子さんですが、 その後10年を経て、今や現代音楽のスペシャリストとして欠くべからざる存在となっております。 様々な意味で万感ひとしおの舞台、ぜひお立会い下さい。 |
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甲斐説宗 (かい せっしゅう) 1938年 11月15日 兵庫県三田町の禅寺に生まれる。 1955年 大阪音楽大学附属高校入学、坂本良隆、近藤圭に師事。 1960年 東京芸術大学作曲科に入学。長谷川良夫に師事 1965年 同大学院入院。しかし奨学金を得て留学が決まり退院。 1966年 ベルリン音楽大学(現ベルリン芸術大学)に入学。 ボリス・ブラッハーに作曲、ヨーゼフ・ルーファーに12音技法を師事。 1967年 ドイツ楽壇にデビュー。G. リゲティの助言を受ける。 1969年 ヴィオッティ国際音楽コンクール入選。年末に帰国。 1970年 東京学芸大学講師。ベルリン国際作曲コンクール入賞。 1972年 日本現代音楽協会の音楽展への出品、NHK等からの委嘱等、 日本での本格的な作品発表を開始。独自な音楽世界を確立する。 1975年 東京学芸大学助教授、東京芸術大学作曲科講師に就任。 この後、禁欲的な音世界へと移行、充実した創作を展開。 1978年 元来寡作な甲斐が一気に4曲を完成。 50日の闘病の末、10月31日、心不全、甲状腺癌肺転移により39歳で逝去。 1979年 3回の追悼演奏会。その後、1980、84、95、97年にも個展開催。 1998年 生誕60年、没後20年に際し、3回の演奏会とシンポジウム、レクチャーコンサートを開催。 |