vol.4' 村田厚生(trb)太田真紀(sop)
〜ジョイントライヴ〜
  


2006年6月11日(日) 19時開演(18時開場)
神戸・アコースティックライヴクレオール (三宮駅北口徒歩10分) map

●ハンス=ヨアヒム・ヘスポス『ナイ』(1979) [sop]
●川島素晴『トロンボーンソロのためのエチュード』(2006) [trb]
●キャシー・バーベリアン / ストリプソディ(1966) [sop]
●河島昌史『点と線』(2006/初演) [trb]
●山根明季子『Whirl 〜手紙魔まみより』
(2006/初演) [sop, trb]

●ジョン・ケージ『龍安寺』〜声、トロンボーン版同時演奏〜[sop, trb, perc]
●森崇博『hybrid-variety』(2006/初演) [sop]
●ヴィンコ・グロボカール『RES/AS/EX/INS-PIRER』
(1975) [trb]
●川島素晴『インヴェンション IIIb』〜女声とトロンボーンのための新版〜(2004/06) [sop, trb]

《入場料》¥2000 + 1ドリンク(\500)   *予約制

--------【曲目解説】--------

ハンス=ヨアヒム・ヘスポス : ナイ (1979) [sop]
ヘスポスは、ドイツを代表する作曲家のひとり。1960年代に開発した独特な記譜法を終始一貫継続して用いて、静と動の対比と緊張力の高い持続に主眼を置いた作風で知られる。造語を駆使したインパクトの強いテアター作品も多く、本作品は数ある声楽作品の中でも代表的なものである。
《ナイ》は、日本で初演され、題名は日本語の「無」を意味しているらしい。様々な唱法、手足まで動員したアクション、などの激しい表現と、静謐な持続による対比が織り成す緊張した時間。
・・・しかし、全ての事象は、最後に発せられる「ナイ」によって、無化する。
(川島・記)

川島素晴 : トロンボーンソロのためのエチュード (2006) [trbn]
このライヴは、今年の2月に東京で開催したものの関西公演ですが、この作品は、その東京公演の際に作曲した作品で、村田厚生さんの様々な技術を駆使することを前提とした内容になっています。私の作品としては、極めてストイックに「特殊奏法」を排除して作られておりますが、その理由は、東京公演の際に組まれていたほかの選曲に、特殊奏法を駆使した作品が含まれていたからであり、ネタの重複を避けた結果であります。
しかし、提示される各素材は、通常奏法でありながら、トロンボーンの様々な可能性を駆使したものとなっており、演奏そのものは大変困難です。その困難さが、奏者の身体性を引き出し、聴き手はそれを共有することで、一瞬ごとの行為の意味を体感する時間が実現する・・・これが、私が常に提唱する「演じる音楽」です。
(川島・記)

キャシー・バーベリアン : ストリプソディ (1966) [sop] 
バーベリアンは、20世紀を代表する現代ソプラノ歌手で、《セクエンツァIII 》をはじめとするルチアーノ・ベリオ(当時夫婦だった)との共同作業や、ケージその他の作曲家の作品を多数とりあげ、現代音楽の歌唱技術を探求したことで知られる。一方で作曲も行っており、とりわけ本作品《ストリプソディ》は、現代声楽作品の系譜や、図形楽譜の歴史に関する記述には、欠かさず登場する名作である。
ここでいう「strip」とは、マンガのコマの意味であり、この作品の楽譜は、様々なマンガ的イメージの連鎖によって形成されている。それらの愉快なイメージが次々に喚起する「オノマトペ」によるコラージュ作品である。従って、テキストのほとんどは、動物の鳴き声や、物音などで構成されている。英語の感覚と日本語の感覚のズレはあるものの、現代の声楽作品としては、格段に判り易いパフォーマンス作品と言えよう。 
(川島・記)

河島昌史 : 点と線 (2006/初演) [trbn]
推移と循環。2つの概念によってこの楽曲は成立する。
点に至るまでの線の推移。点と線による推移と循環。
最後に点と線は統合され循環する。
(河島・記)


<河島昌史>
19801220日生まれ。2005年大阪音楽大学卒業。2003年第72回日本音楽コンクール作曲部門入選。
2005年ローマ・ブッキ国際作曲コンクール(イタリア)にてウ゛ァレンチノ・ブッキ賞受賞。
2006PMF(環太平洋音楽祭)奨学生に選抜される。これまでに作曲を川島素晴に師事。

山根明季子 : Whirl −手紙魔まみより (2006/初演) [sop, trbn]
 【Whirl】 (ジーニアス英和辞典より抜粋)
−動・自  1.〈物・人が〉(ものすごい勢いで)ぐるぐる回る;回転[旋回する;渦巻く]
      2.急に向きを変える[わきへそれる] 
       3.〈人・車が〉疾走する、急いで行く

      4.《文》めまいがする、〈頭が〉ぐらぐらする、[…で]混乱する 
       5.〈考え、感情などが〉次々に浮ぶ、わき出る
−名 1.出来事などの)めまぐるしい連続 
    2.騒動;(精神の)混乱、乱れ etc…

ソプラノの発声する言葉として今回引用した穂村氏の短歌(下記参照)は、架空の一人称 “まみ” という少女の視点から描かれており、現代人特有の感覚に鋭く切り込みながらもポップでライトな作風を示している。引用部分は、歌集の中の「手紙魔まみ、みみずばれ」の章からの抜粋であるが、分裂的に匂わせるタナトスを、私は更に単語を散りばめ執拗に反復させ、トロンボーンとともに様々な奏法を駆使して描き、Whirlという語が連想させるような世界観を演出しようと試みた。
(山根・記)


*テキスト 穂村弘「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」(小学館)より
 「俺たちはまざるべきだ」壊れる、こわれるかわいい可愛い可愛可愛
 神様、いま、パチンて、まみを終わらせて(兎の黒目に映っています)
 「思った通りだ。すごくよく似合う」(神様、まみを、終わらせて)パチン
 「この道はまみのためにつくられたんだ」(神様、まみを、終わらせて)パチン

 「ウサギにも男の遊びを教えよう」(神様、まみを、終わらせて)パチン
 「50000km達成。ここで乾杯」(神様、まみを、終わらせて)パチン

山根明季子
1982年大阪出身。京都市立芸術大学音楽学部作曲専攻卒業。現在同大学院2年生。卒業に際し音楽学部賞ならびに京都音楽協会賞受賞。在学中より明治安田クオリティオブライフの奨学生となる。2005年よりブレーメン芸術大学(ドイツ)に派遣されヨンギー・パクパーン氏のもとで研修を積む。第5回武生作曲賞入選、同音楽祭に招待作曲家として参加。ロワイヨモンVoix Nouvelles 2006(フランス)奨学生賞。第22回日本現代音楽協会作曲新人賞入選及び富樫賞。作品は2005年にNHK-FM「現代の音楽」にて放送される。
これまでに作曲を澤田博、松本日之春、前田守一、中村典子、川島素晴の各氏に師事。

ジョン・ケージ 龍安寺 〜声、トロンボーン版同時演奏〜 [sop, trb, perc]
20世紀を代表する芸術家ジョン・ケージについて、ここで何か述べるまでもなかろうが、例えば「何も演奏しない」作品である《4’33’’》は、一見ダダイスティックなものと思われがちだが、最も重要なことは、これはコンサート会場に鳴り響く「自然」を聞くべき作品であること。すなわちケージは、常に「自然」への洞察と尊敬をもって音楽活動を行っていたことについては、唯一、確認しておきたい。
本作品《龍安寺》は、京都の龍安寺の石庭にインスパイアされたドローイング作品(曲線のみによって構成されている)に基づき、その曲線を、チャンス・オペレーション(偶然性の音楽。「易経」に基づいた選択で音の配列を決定する)によって構成したもので、声、フルート、オーボエ、コントラバス、トロンボーン、更にはそれらを日本の楽器に編作したバージョンなどもあるが、本日はそのうち声とトロンボーンのバージョンを同時演奏する。
いずれのバージョンも、各部分ごとに音域が設定され、配置された曲線をその音域指定に従って演奏する、という点では共通するが、声のバージョンはシラブルが指定されており、トロンボーンのバージョンでは極限的に低音域に偏った設定が特徴的である。
これらの演奏には、打楽器あるいは室内管弦楽のオブリガートが付されることになっている。本日は、打楽器のオブリガートを用いるが、これは1拍子〜7拍子までのパルスが淡々と打たれるだけのものである。金属打楽器と木質打楽器の2つを同時に叩く、という以上の具体的な楽器の指示はない。
(川島・記)


森 崇博 : hybrid-variety (2006/初演) [sop, rec]
自室でレコーダーに自分の歌を録音しながら練習する歌手。
録音し、再生し、確認しながら自分の歌声を聴く。
・・・のはずが、いつの間にやらレコーダーが自らの意志を持ち始め、何やら異常な状況に。
歌手とレコーダー。人間とテクノロジー。
それまでの両者の関係に徐々に異化が生じていく。
(森・記)


<森 崇博>

1979年大阪生まれ。高校2年から作曲を学び始める。2004年大阪音楽大学大学院音楽研究科作曲研究室修了。第14回吹田音楽コンクール作曲部門第3位。KAVCに於いて現代劇の作曲/編曲/演奏/コンピュータープログラミング、ミュージカルの編曲を行う。2004-2005年、長編劇映画「赤い束縛」(監督:唐津正樹)のサウンドトラック制作。同作品はヨーロッパの各映画祭を巡る。20055月、映画などのフィールドで活動する三上良太とエレクトロニカ・ユニット"PROVOKE"(プロヴォーク)を結成。多数のイヴェントに出演、live活動中。また、東京を拠点に活動中の演劇と映像を中心としたアートパフォーマンスグループ"nudo"の音楽を制作予定。今年6月東京にて公演予定。
PROVOKE web site → 

ヴィンコ・グロボカール : RES/AS/EX/INS-PIRER (1975) [trbn]
グロボカール自身がトロンボーン奏者であり、ベリオをはじめとする様々な作曲家との共同作業を通じてトロンボーンの現代奏法を拡張したことはよく知られるが、近年は、作曲家としても大変高い評価を得ており、2004年のサントリー・サマーフェスティヴァルで初演された管弦楽作品をはじめ、日本でも氏の作品に触れる機会は増している。
この作品《RES/AS/EX/INS-PIRER》は、グロボカール自身も録音している金管奏者のための作品である。呼気と吸気のいずれにおいても発音するという設定を一貫させる作品で、奏者は事実上、息継ぎをすることができないという過酷な作品である。呼・吸のいずれにおいても様々な奏法が駆使され、身体的極限が試行される。
(川島・記)


川島素晴 :インヴェンションIIIb (2004/06) [sop, trbn]
「日本語による発話」という問題に取り組んだシリーズ。第1曲は、「は」という発音の漢字の羅列がテキストであり、様々な唱法で発せられる「は」の音に、ティンパニの様々な奏法が重ねられていく。第2曲は、現代詩人の様々な詩から「名詞」のみを抽出して羅列。音節の連鎖が単語として認識される際の音程構造と、それに付随するハーモニー(ヴィブラフォンによる)を扱った。
音節→単語と進んだ同シリーズの第3弾として書かれたこの作品では、様々なシチュエイションによる発話が想定されている。元来、バリトン奏者が演ずるそれを、トランペットとトーキングドラムが模倣するバージョンであったものを、今回のデュオ用に改作したのが、この作品である。
東京のお客さんは、結構、笑ってくださるのですが、関西の客は厳しい、という前評判で。。。覚悟してます(笑)。
オリジナルについて
(川島・記)